タイガーマスク基金 インタビュー

タイガーマスク基金 インタビュー#9
自立支援コーディネーターによる児童養護施設の支援標準化を

早川悟司さん

児童養護施設「子どもの家」副施設長・自立支援コーディネーター。東京都社会福祉協議会児童部会 リービングケア委員会副委員長。特定非営利活動法人3keys 理事。

 

競争社会に違和感があった

大学では経営学科で学んでいました。大学には通ってましたが、卒業する気は、あまりなかったかも(笑)。十代の頃から飲食の仕事に興味があって、「三十歳くらいで店を任されたらいいかな」なんて思っていました。

 

アルバイト先の割烹料理屋を22歳の時に任されることになったんですよ。自分に教えてくれていた店長が解雇されてしまって、「おまえが店を回しているんだろ」という感じで、店長に指名されました。でも、達成感はありませんでした。「自分が出世するのに、何を躊躇しているんだ」って言われましたけどね。人を押しのけても残っていく、競争社会に違和感があったのかも知れません。

 

悶々としていたある日、雪が降ってきた空を見上げて、ビリビリッときたんです(笑)。得体のわからない、ただただ強烈な感覚だけれども、「自分のいるところは、ここではない」ということだけは即座に感じ取りました。「他に行くべきところがある」と。その後、様々に考えたり調べたりする中で「福祉」に行きつきました。

 

「福祉の仕事がしたい」と、親に告げると、父は、福祉の「ふ」の字も知らないような人で。けんか別れのような感じで家を飛び出しました。一時はホームレス状態になりながら、土工をしたり、ガードマンをしたり、なんとかお金を貯めて。知人経由で、母親が仕送りしてくれたり。それで日本福祉大の3年次に編入して福祉を学びました。

 

 

実習した情緒障害児短期治療施設の小学生11人中10人が被虐待児

最初は、アフリカとか、海外の貧困などに関心があったんですが、社会福祉士の実習を情緒障害児短期治療施設で行わせてもらいました。子どもと毎日関わりながら「この仕事だ」って思いました。私が行った情緒障害児短期治療施設は、小学生11人中、10人が身体や性的など、虐待を受けた子どもたちでした。乱暴で激しいコミュニケーション……。この子たちはどういう子なのか。プロフィールを見ると、親も虐待を受けているケースがほとんどで、世代間での暴力の連鎖がはっきりと確認できました。


卒論では、「体罰」を主に取り上げました。私自身も、子ども時代には親や教師から体罰を受けていました。言ってわからないなら、殴る……。その中で、自分自身も手が出やすくなっていました。

 

「日頃の信頼関係があれば、いざというときの体罰に効力がある」という教育研究者もいました。でも、「体罰の容認」と「虐待の連鎖」の質は一緒だと思っています。自分自身、20歳過ぎまでケンカをしてお巡りさんのお世話になったことがあります。子どもの前では言えませんが(笑)。けれども、実習を契機に、暴力や体罰に対しては強い確信をもって否定しています。

 

私が勤めはじめたころは、児童養護施設でも職員から子どもたちへの体罰が少なくありませんでした。今でもこれらが完全に消失したとは言えません。虐待を受けた子どもこそ、暴力に頼らないコミュニケーションを徹底して教えていかなければならないと思います。

 

>「自立支援コーディネーター」として、児童養護施設における支援を標準化していく

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