施設を退所した子どもたちと地域をつなぐ空間であれたらとカフェをスタート #12

インタビュー

武石和成さん(一般社団法人SHOEHORN代表)

奥様が店長を務める”cafeシモキタトナリ”を経営しています。cafeシモキタトナリは、世田谷代田(世田谷代田駅の南口改札出口の目の前)にあるわずか5坪ほどの小喫茶。「人がスクスク育つ」を目安に、手づくりのご飯やベーグル、お菓子などの軽食を提供している。運営は、一般社団法人SHOEHORN。スタッフはほぼ全員が児童福祉の専門家。代表の武石さんはもうすぐ1児の父に。

施設職員のままだと退所児童の話を聞くことに専念することができなくて

私自身、以前は、児童養護施設の職員でした。でも在職中から、子どもたちが施設を出た後のアフターケアに困っていました。退所児童を送り出すと、また新しい子どもたちが入所してくる。忙しい毎日の繰り返し……。退所児童がふらっと立ち寄ってくれたら、「元気?」「どうしたの?」と慌ただしく声をかける。もちろん、それは悪いことではないけれど、そんな声かけによって、「何か用件をもっていないと、寄ることのできない場所」になってしまうのでは。と、とてもジレンマを感じていました。

やりたいことに専念するためには、施設に在職しながらというのは難しいため、施設を辞め、友人と共に2015年6月に「cafeシモキタトナリ」というカフェを立ち上げました。

「シモキタトナリ」の店内。

立ち上げに際して公金は一切もらわない形でスタート。その方が、活動の自由度も上がると思いました。児童養護施設などを退所したOBが、ふらっと立ち寄れる場所。対等に関わりができる場所、お金がない食べ物がないときには家庭的な料理を提供できる場所、ということでカフェにしました。

場の枠組みはNPOや福祉法人ではなく、商売のみのため、個別にデザインした職場体験など施設職員のアイディアを形にする場としても活用できるのでは、と目論んでいます。また、プライバシー保護の観点から、個人が元被支援者の個人情報を持つことは基本的にできないので、元被支援者と元支援者の再会の場になればとも期待しています。

実際、カフェの運営は大変ですが、来てくれる退所児童や何かの支援ニーズのある未成年に個別に対応できるのですごくやりがいがあります。先日はある児童がPOP作りをしてくれましたが、隣に座っていたお客さんに褒められて誇らしげでした。カフェを運営していること自体が、福祉活動なんです。

子どもたちに仕事の色々な面を伝えたい

児童養護施設の子どもたちの職場体験として、カフェで働いてもらうこともあります。直接売上に貢献してくれた作業については、わずかですが報奨金も払っています。児童養護施設で育った子どもたちは、施設職員の仕事ぶりは見ていますが、他の仕事をしている大人に出会う機会が圧倒的に少ないんですよ。退所後の希望職業に施設職員や保育士などがとても多くて、もちろんそれは悪いことではないけれど、たくさんの仕事を知って、その上で仕事を選んで欲しいと思っています。だから、このカフェで働くこともそうですが、「オシゴト図鑑」というのをカフェに来た人などに描いてもらっています。仕事内容や、仕事のために必要なこと、仕事のうれしいこと、辛いことなど……。手書きしてもらった方が温かさも伝わりますからね。

困っている子に1杯の飲み物を提供できる「エールチケット」

児童養護施設などを退所して仕事についても、うまくいかない場合が少なくありません。あまり稼げていない子もいます。そんな子ども・人たちのために作ったのが「エールチケット」。ここはもちろん、誰でも利用できるカフェですから、訪れた人で希望してくれた方に、自分のコーヒー代+誰かのための飲み物チケット「エールチケット」を買ってもらっています。もちろんお願いをしているわけではありません。がんばっている次世代のために何かをしてあげたい、と考えている大人と、うちを利用してくれる子どもを、1対1でつなげる取り組みがしたかったのです。エールチケットのストックがあれば、お金がなくても、退所児童などがここにふらっと立ち寄ってくれたら、無償でコーヒーや飲み物を提供できるんです。その来店をきっかけに、話を聞いたり、力になれるかもしれない。そんな可能性への願いも込めた「エールチケット」です。

美味しいドリンクを飲んだら、エールチケットを購入して、他の誰かに飲み物を!

カフェの運営は財政的にも厳しいですが、支援者がケータリングや貸し切りなどの利用をしてくれることも増えています。子どもが描いてくれたクツベラマン(運営の団体名がSHOEHORNのため)の「ラインスタンプ」も好評です。

地域の中にある空間として福祉の縁をつなぐ場所に

児童養護施設の関係者の支えになれたらと思って始めた場所ですが、そんな一方的に手をさしのべるだけの場所ではなく、弊店の新聞記事を見て来店した子どもがたまたま来店していたご高齢のお客様の話を聞いてあげていることもあったんですよ。このカフェが、地域のコミュニティの縁をつくる一助になれたらいいなと思っています。

最近では児童養護以外の子ども支援団体/機関さんともつながっていて、カフェの存在を応援してくれる方も増えています。行政が支援したり関わるところまでではないけれど、地域で気長に見守った方がいい子どももいますから。カフェにジュースを飲みに来てくれたら様子がわかる、地域の気づき役を果たすこともできます。

カフェなので、福祉施設でもなく、行政機関でもないから、子どもの個別の事情に合わせたサポートが実施できます。施設の職員さんほど濃密な関わりはできないけれども、少し距離のある第3者だからこそできることもある。既存の制度や取り組みの隙間を埋めることができるカフェ=空間であればと思っています。

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