タイガーマスク基金 インタビュー

タイガーマスク基金 インタビュー#1
まずはみなさんに児童養護施設のことを知ってもらいたい

子どもたちのためにできること‐問われる施設の力量

 

私たちの施設では、小学校6年生、中学校3年生、高校3年生のときに進路会議を開きます。中3の場合は受験がありますし、高3になると就職か進学かという大きな判断をすることになります。知的障がいの子で家庭に帰れない場合は、成人になって障がい年金が出るまでの生活の場所と就職とをワンセットで検討します。
 

一番難しいのが、高校生の自立支援。そこは施設の力量が問われます。将来に希望が持てるように個別の目標を立てられるか。子どもの力だけですべてを整えることは不可能ですから、施設が情報を揃えてあげることは必要だと思います。奨学金の情報を集めたり、就職先を独自に開拓することもあります。施設の力量がないと、結果、子どもの自立に向かう際の選択肢を狭めてしまう。子どもたちには、たくさんの選択肢から、自分にあった進路を見つけて欲しいと思っています。
 

そこで、私たちの施設ではNPOなどのプログラムを利用し、社会常識を学ぶことをはじめ、社会性を身につけさせていただいています。たとえば卒園した後に法的に巻き込まれやすいトラブルや契約関係などがありますが、子どもたちに向けた勉強会を、司法書士さんのグループがやってくださったりしています。

 

 

社会の構造の問題 -負の連鎖が止まらない

いま、日本は負の連鎖が止まらない。敗者復活がなかなかしにくい社会になっています。収入や学歴、低年齢での出産、地域での孤立した子育て……。いろんな問題がある中で、自分の未来が見えない大人たち。生きづらい人たちをたくさん生んでしまう社会の構造自体が、ストレスを増やしている。その生きていくつらさが、みんな子どもたちに向かっていってしまう。それが虐待を生みだす原因となっているんじゃないかと思っています。

 

 

全国の児童養護施設が抱える問題

アメリカに比べたら日本には寄付文化が根付いていないでしょう。アメリカで個人からの寄付は30兆円規模だそうですが、日本は何十分の1ってまったく桁外れ。

 

東京都は「東京都加算」といって、都が独自に出してくれるお金が一人あたり毎月8万円ありますが、補助金の出ない地方が多く、もう地方は必死です。子どもにとってよい支援をしようと思うとそれだけお金が必要です。だから寄付をしたいという方にはどんどんお願いしたいです。ただ問題は、どこに施設があるのか、何に困っているか、そして寄付金の使われ方、こういったものについて寄付をしたい側が分からないことです。

 

 

ファザーリング・ジャパンに期待すること
タイガーマスク基金の役割として

施設の職員も一生懸命頑張っているし、子どもたちにも罪はないのに、彼らが当たり前に育っていける環境を、どうしても施設の力だけで整えることができません。行政もタイガーマスク運動を追い風に制度を改善しようと動いています。でも、どうしたってそこに足りないものが出てくる。じゃあそれを誰が補ってあげるのかと言ったら、やっぱりたりないことや問題点に気がついて手を差し伸べられる人なんですよね。そこにファザーリング・ジャパンの力の必要性を感じます。

 
昨年末のタイガーマスク運動のおかげで、厚生労働省の「社会的養護を考える検討委員会」など、ずいぶんいろんな話も出てきました。みなさんの動きや声がマスコミを動かし、気運を高めたというのはすごく大きいと思います。絶えず「こういう子たちがいるんだよ」という情報を出していくことが法律や制度を変えるきっかけとなりますから、まずはみなさんに児童養護施設のことを知ってもらいたいと思っています。そのためにはせめて全国にどんな施設があるのかぐらいは、わかりやすい形で示したい。自分の住む地域の近くにある施設なら応援してあげようという気になるかもしれませんよね。
 

将来的には、どこの施設が何を求めているのか、インターネットで全国の児童養護施設を検索できるようなことが、タイガーマスク基金でやれたらいいなと思っています。特に地方はホームページを持っていない施設が多いし、職員は子どもたちのことで手いっぱいで広報をする余裕もありません。情報としてわからないから、わかりやすい東京ばかりに、物も人もお金も集まるいびつな状況になってしまっています。施設によって格差があるなんて絶対に変ですし、そこにいる子どもひとりひとりが置かれる状況の全国平均をなんとか上げていきたいと思っています。
 

児童養護施設を支援する既存のNPOに注目する人と、タイガーマスク基金に注目する人とは、また全然違うと思うんですよ。タイガーマスク基金はいろいろな人に火をつける役割。そこにはきっと良い飛び火もあるはずで、そのことにも期待しています。

 

私がファザーリング・ジャパンに期待するのはみなさんの知恵や資源、ネットワーク。たとえば先にあげた広報的な部分は必要とされている役割です。行政がやらない、民間だからこそできることはあるはず。ファザーリング・ジャパンだからできることがあるのだと思っています。

 

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中村久美さんには2011年4月のタイガーマスク基金でもお話しいただきました。

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