タイガーマスク基金 インタビュー

タイガーマスク基金 インタビュー#2
野生のイルカが住む島で子どもの「心のケア」を大切にする16年間

正面から向き合い、正直に伝える

 

子どもたちと接するうえで、「正直でいること」が大事だと思っています。その子が施設にいるとかつらい環境だという背景はあるのですが、それはちょっと置いておいて、大人が自分の中で「これはちょっと」と思ったことは、言葉に出して伝えないといけないと思います。

 

御蔵島の人たちは、「父ちゃんに何されたんだ」「行くとこないのか、じゃあどこに帰るんだ」と、子どもたちに普通に言葉をかけています。その子がどういう環境にあるかは別にして、「目の前の子どもを大切に思う」から出る素直な言葉であるということがベースにあるのです。彼らは、詮索しようとか、色眼鏡で見たりしているわけではない。だからその子に正面から向き合って、本心をちゃんと話して伝えてくれる。そこに本当の人間関係が生まれてくるのだと思います。

 

私自身、最初は子どもたちとのやりとりにずいぶん傷ついた経験があります。あいさつをしても無視される、「私、何かひどいことした!?」って(笑)。でもその気持ちを言わなかったら、そのまま何も関係が変わらないということにある日気づきました。「ちょっと、どうしてあいさつを返してくれないの?」と言ったら、子どもの方がハッとして、「あ、ごめん、わざとじゃなかったんだけど」となって。「あなたの今の態度がすごく怖かった」とか、子どもに対して感じたことを言わなければ、子どもたちとのコミュニケーションも出来ないのだと、その時思いました。

 

自分の気持ちを素直に伝えること。悲しいとか、苦しいとか、うれしいとか、楽しいとか、そういうことをきちんと言葉にする。私だって「言いすぎちゃったかな」と思うこともありますが、普通の家庭でもそんなことはよくあること。たくさんの場面を繰り返し、積み重ねながらお互いの距離を少しずつ測っていく。これは、ぞれぞれの大人にもよりますし、相手の子どもにもよりますし、さまざまな距離の取り方、アプローチの仕方があるのだと思います。

 

 

母性と父性の全体的なバランス

CROP.-MINORI-は、「受け入れる」とか「育む」という活動の方法も含めて、どちらかというと母性的な団体です。だからこそ、バランスの重視を考え、御蔵島には男性と女性がスタッフで行きます。母性で大きく包むけれど、男性的な力、父性的な力を発揮する場面も必ずあります。

 

今の子どもたちの社会的背景には、しんどい思いをしているお母さんの存在があります。そこが変われば子どもたちの環境もまったく変わるかもしれません。男性が子育てに参加するというのはとても大事だと思います。直接的な子育てだけではなく、お母さんをサポートすることも、結果的には子どもを育てていることになると思います。そんな男性と女性の存在、母性と父性のあり方自体も、参加した子どもたちに、感じ取ってもらえればと思っています。

 

 

課せられるハードルがあまりに高い子どもたち

児童養護施設の子どもたちはいつでも「制度」に当てはめられています。虐待や何らかの理由があって児童相談所に保護されて、措置をされて、振り分けられる。児童養護施設に入ると、今度は18歳になったら施設を出なさい……という話になる。子どもたちは、法律に基づいた制度に当てはめられ、その中で生きているわけです。

 

18歳まで施設にいられるのは、基本的に高校など学校に行っている子どもだけです。学校に行かなかったり、問題を起こして施設に適さないと判断されてしまった子は、18歳にならないうち、たとえば15歳でも施設を出なくてはなりません。施設を出たあとの制度はまったくありません。何をするにも自分でやらなくてはいけないわけです。唯一「自立援助ホーム」という義務教育終了後、15歳から20歳までの子どもたちをサポートする場所があります。ただし、「自立援助ホーム」に入るには、仕事をしていることが条件になり、家賃的なものを支払う必要があります。

 

彼らは自ら希望して児童養護施設で暮らしているわけではありません。子どもたちは被害者。なのに、生きていく上で彼らに課せられるハードルだけは、ものすごく高くなってしまう。それが、児童養護施設を出た子どもたちの現状です。

 

 

子どもたちが帰る場所・やり直せる場所を作る

子どもたちは施設を卒園した後、どこかの段階で必ずと言っていいほどつまずきます。失敗しても、もう一度施設に戻ることもできず、帰るところがない。失敗の内容によって、鑑別所や少年院に行く子もいる。“普通に戻れるところがない”という、厳しい状況があります。

 

子どもたちの心のケアへの支援も本当に手薄です。彼らの心には失敗を乗り越えて前に進むためのエネルギーが蓄積されていません。いくら自立への線路を引いてあげても、心をサポートしてあげないと結局どこかで立ち止まってしまうんです。そういうつまずいて、立ち止まってしまうそんな彼らの姿をずっと見てきました。

 

だから、「しんどくなったり、失敗したらここに来なさい」と言える、“もう一度立て直しができる場所”をきちんと作らなくてはダメだと思いました。
それが今回のファミリーホーム設立の流れにつながりました。今の制度の中だけでは子どもたちへのサポートが途切れてしまいます。制度の枠にはまる子どもというのは実は限られていて、そこに、はまらない子どもたちの方が圧倒的に多いと思います。ごまかしながらやってはいるけれど、本当の意味での充実した人生を送るための準備ができているかといえば、99.9%の子ができていない。

社会の枠にはまりきれない子どもたちが目の前にいるのです。……それは15歳でも、21歳でも、30歳でも同じです。私たちは関わった子どもたちに対して、責任を持ち続けたい。そういう思いで活動しています。

 

 

ファザーリング・ジャパンに期待すること
タイガーマスク基金に関わってみて

タイガーマスク基金の勉強会でお話しさせていただいた後、メールをいただいたり、アンケートの回答や、ツイッターでのやり取りなどを通して、「他人事には思えない」「何か自分にできることは」と、みなさんの気持ちが伝わってきて、本当にありがたいと思いました。子どものことをきちんと理解したうえで対応したい、と思ってくださっている。今までそういう方たちに会うことが少なかったので、私にとってはすごく新鮮で、うれしく思いました。仲間とのつながりは、やっぱり心強いですね。

 

児童養護施設の出身者たちは、「普通の大人」に会う機会が少ないので、世の中のパパたちが、どんなことを思って子育てや仕事をしているのか、どんな風に家族を思っているのか、どんな風に社会とつながっているのか……。ぜひ彼らに伝えていただきたいと思っています。彼らは自分の父親から聞いたことはないでしょう。親になること、パパになること、家族を思うこと……。子どもたちが、そんな大人の思いを知ることはすごく大きいと思います。

 

子どもたちの未来をファザーリング・ジャパンがつないでいく、それもコツコツと。子育てと一緒で、コツコツと。タイガーマスク基金を、みなさんと一緒に温かく、ゆっくり育てていただけたらと思います。

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